フォームによって同じ速度でも負荷が変わる事が体感できるのですが、空気抵抗の軽減効果を数値化できますか?
そこで 9通りのフォームの速度データから空気抵抗を計算しました。
各フォームの空気抵抗が分かる。
空気抵抗が気になる人。
フォームの違いにより、空気抵抗が大きく変わります。
正確な値を得るにはCdAが計測できる施設で計測する必要がありますが、計測費用がかなり高額になります。。
そこで本記事では、9通りのフォームの速度データを基に空気抵抗の値を計算して数値化した結果をランキング形式で取り上げます。
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目次
乗車フォームの選び方
「下り坂」「平坦路」「上り坂」3つの走行場面に応じた乗車フォームの選び方を紹介します。
下り坂 ダウンヒル
ペダルを漕がなくても高速走行できる下り坂では、ペダルが漕ぎにくくても空気抵抗が大きく軽減できるフォームを取りますと、漕がなくてもより速度が出ます。
コーナーでブレーキを掛けて減速した時は、一時的にペダルが漕ぎやすいフォームに取り直して加速し、十分に加速できましたらまたフォームを戻して走行すると良いです。
平坦路 高速巡行
平坦路の場合、下り坂とは違いペダルを漕がないと失速し最後には停車しますので、常にペダルを漕ぐ必要があります。
そして、30km/h以上で走行した場合は推進力の90%以上が空気抵抗に奪われてしまいます。
ですので、空気抵抗が小さくペダルも漕ぎやすいフォームで走行しますと、より速く走行できます。
上り坂 ヒルクライム
上り坂では空気抵抗よりも登坂抵抗の方が大きいですので、空気抵抗を減らす為に深い前傾姿勢を取ってもほとんど効果がなく、前傾姿勢の維持に体力が消費され逆に遅くなります。
空気抵抗を気にするよりも「呼吸のしやすさ」「フォーム維持のしやすさ」「ペダルの漕ぎやすさ」を重視した方が速く上れます。
空気抵抗軽減フォームランキング
計算して得られた空気抵抗値を小さい順で並び替えてグラフ化しました。
前面投影面積が小さい程、空気抵抗も小さくなる傾向です。
1位 下ハンドル(下り専用フォーム)
下り最速フォーム。
35km/h 走行時の空気抵抗 149.7w
CdA 0.325
下り坂
平坦路
上り坂
今回テストをした中で、一番空気抵抗が小さくなるフォームです。
フォームの取り方はサドル後方に座ってお腹と太ももをくっつけます。
サドルに座るフォームでブレーキレバーをすぐに握れますので、ブレーキを掛けても前転しづらく安全に下り坂を速く走行できます。
このフォームで平坦路も走行できると良いですが、太ももがお腹に当たっていますのでペダルが漕げません。
速度を調整する時は、上半身を起こしてわざと空気抵抗を増やしますと少し減速できます。
大きく減速したい時はブレーキを断続的に掛けて、リムに摩擦熱が蓄積されない様にしましょう。
2位 ブラケット(前傾深く)
ペダルが漕げて空気抵抗が小さい。
35km/h 走行時の空気抵抗 156.9w
CdA 0.341
下り坂
平坦路
上り坂
ペダルが漕げるフォームの中では、一番空気抵抗が小さくなります。
ですが、腕に掛かる負担が大きい為フォームの維持がきつく、日ごろからこのフォームで乗車していませんと走行し続けられない所が難点です。
なお、2024年からJCFのルールが変更されており、ブラケットに手を軽く添えた状態で腕をハンドルバーにもたれ掛かる様にしますとペナルティーを受けます。
JCFルールが適用されるレース(タイムトライアル除く)では、ハンドルバーに上半身の体重を乗せない様に注意しましょう。
3位 エアロバー(両側持ち)
フォームの維持が楽で速い。
35km/h 走行時の空気抵抗 161.0w
CdA 0.346
下り坂
平坦路
上り坂
エアロバーの肘あてにもたれ掛かりながら走行できます。
長時間走行していても疲労しづらく、空気抵抗が小さくなりますので速く走行できます。
エアロバーを握っていますと低速域でふらつきやすく、下りではドロップハンドルに握り替える必要がある為、すぐにはブレーキを掛けられませんので危険です。
また、平坦路高速走行時でもハンドリングが難しく、エアロバーを握った状態でコーナーを曲がるには慣れが必要です。
また、急コーナーではブラケットや下ハンドル(ドロップハンドルに取り付けた場合)に握り替えませんと慣れていても危険です。
レースやイベントではエアロバーの使用が禁止されている事が多いですので、参加する場合は事前に取り外しておきましょう。
肘あてにもたれ掛かりながら走行できますので楽で、速く走行できますのでロングライドにおすすめです。
4位 エアロバー(片側持ち)
空気抵抗軽減効果はありませんので、エアロバーは両側を握りましょう。
35km/h 走行時の空気抵抗 162.5w
CdA 0.352
下り坂
平坦路
上り坂
空気抵抗が減りそうですが、エアロバーの右側だけを両手で握っても空気抵抗は変わりませんでした。
むしろ、普通にエアロバーの両側を握った方が僅かに速かったです。
5位 下ハンドル(前傾深く)
空気抵抗が大きく軽減できてペダルを強く踏み込めるフォーム。
35km/h 走行時の空気抵抗 166.9w
CdA 0.359
下り坂
平坦路
上り坂
ペダルが漕げる範囲内で前傾姿勢を深くしたフォームです。
空気抵抗が大きく軽減できてペダルも強く踏み込めますので、下り坂のコーナーを抜けた後に加速する時や、レースでのゴールスプリントや逃げを決める時におすすめです。
前傾姿勢が深く肘を大きく曲げるフォームの為、慣れていないと長時間のフォーム維持が難しいです。
6位 下ハンドル(前傾浅く)
前傾姿勢が緩い為、空気抵抗は大きめ。
35km/h 走行時の空気抵抗 189.1w
CdA 0.413
下り坂
平坦路
上り坂
下ハンドルを握った時でも前傾姿勢が緩く長時間フォームの維持ができて、ペダルに力を加えやすいです。
また、ブレーキレバーを強く握れますので、下り坂に慣れていない初心者でも安全に走行できます。
ただし、前傾姿勢が緩いフォームの為、空気抵抗が大きくなる所が難点です。
ブレーキレバーを強く握れますので、リムブレーキでも制動力は抜群です。
7位 ハンドルバー
空気抵抗の割合が小さい上り坂走行に向いているフォーム。
35km/h 走行時の空気抵抗 196.8w
CdA 0.427
下り坂
平坦路
上り坂
ハンドルのフラット部分を握りますと上半身が起きますので呼吸がしやすいです。
上半身が起きますと空気抵抗が大きくなりますので平坦路走行には不向きですが、速度域が低めになる上り坂でよく使われるフォームです。
下り坂ではいつでもブレーキが掛けられる様、下ハンドルに握り替えましょう。
上半身が起きますのでフォームの維持がしやすいです。
8位 ダンシング
効率よりもパワーで押し切りたい場面に。
35km/h 走行時の空気抵抗 198.0w
CdA 0.429
下り坂
平坦路
上り坂
ダンシングは、自転車を左右に大きく速く振ってペダルに体重と脚力の両方を加える攻めのダンシングと、自転車を小さくゆっくり振ってペダルに体重を乗せる守りのダンシングがあります。
攻めのダンシングは持続できるペースを大きく超えてアタックを仕掛ける時に使われます。
守りのダンシングは上り坂でこれ以上軽いギヤがない場合でも走行し続けたり、シッティングで上り続けている時に脚や腰をリフレッシュしたりする場合に使われます。
守りのダンシングは慣れますと継続して走行できますが、攻めのダンシングは脚と体力の消耗が激しく持続できません。
データを取るまでは空気抵抗が一番大きくなると思っていましたが、テータ取りした結果ではハンドルバーを握って走行するフォームと空気抵抗の差がほぼありませんでした。
9位 ブラケット(前傾浅く)
ダンシングより空気抵抗が悪い?
35km/h 走行時の空気抵抗 208.3w
CdA 0.453
下り坂
平坦路
上り坂
平坦路と上り坂の走行に向いているフォームです。
ブラケットを握った状態ではブレーキレバーを強く握れませんので、リムブレーキ車で下り坂を走行する場合は下ハンドルに握り替えましょう。
データ取りした結果、意外にもブラケットを握ったフォームの空気抵抗はダンシングより悪い結果になりました。
ブラケットフォームの空気抵抗が本当に一番悪いのか、精査する必要がありそうです。
少し前傾姿勢になりますので、ペダルに力が加えやすいです。
空気抵抗値CdAの計算方法
手順1 走行抵抗平均値と転がり抵抗係数を求める
下記リンク先に記載されている「転がり抵抗の算出方法」の手順1から手順7まで一つずつ段階を踏んで計算を行います。
なお、今回はフォームを変えてデータ取りしていますので、手順8と手順9の項目の計算は不要です。
データNo. | 抵抗値w | 時速km/h | コメント |
1 | 112.823 | 34.805 | 往路 |
2 | 177.499 | 35.001 | ↓ |
3 | 229.404 | 34.934 | ↓ |
4 | 156.436 | 34.659 | 復路 |
5 | 157.226 | 34.641 | ↓ |
6 | 159.930 | 34.859 | ↓ |
7 | 175.627 | 34.640 | 往路 |
8 | 191.733 | 35.237 | ↓ |
9 | 181.834 | 34.396 | ↓ |
10 | 142.858 | 34.590 | 復路 |
11 | 153.824 | 34.887 | ↓ |
12 | 166.540 | 35.122 | ↓ |
平均 | 167.144 | 34.814 |
取得したデータを計算した所、「平均抵抗値167.144w」「平均速度34.814km/h」「転がり抵抗係数0.002609」になりました。
手順2 転がり抵抗だけの値を求める
転がり抵抗だけの値は下記計算式から算出できます。
\((体重+自転車重量)×転がり抵抗係数×\frac{時速}{3.6}×重力加速度9.806\)
体重61kg自転車重量12.7kgと手順1の平均速度を代入して計算しますと、
\((61+12.7)×0.002609×\frac{34.814}{3.6}×9.806\)
=18.234w
になりました。
手順3 空気抵抗に消費される値を求める
空気抵抗に使われるパワーは平坦路を走行する場合勾配抵抗がありませんので、「全体のパワー値 – 転がり抵抗」で算出できます。
計算しますと、
167.144-18.234=148.910w
になりました。
手順4 空気抵抗値CdAの値を求める
最後に「手順3」の計算結果を用いて空気抵抗値CdAを求めます。
\(\frac{空気抵抗に使われるパワー}{\frac{1}{2}×重力加速度9.806×(\frac{時速}{3.6})^2}\)
計算しますと、
\(\frac{148.910}{\frac{1}{2}×9.806×(\frac{34.814}{3.6})^2}\)
=0.325
になりました。
まとめ
下り坂ではペダルの漕ぎやすさよりも空気抵抗を軽減できるフォームにする。
平坦路ではペダルの漕ぎやすさと空気抵抗の軽減を両立させるフォームにする。
上り坂では空気抵抗の軽減よりも呼吸のしやすさとフォーム維持のしやすさを重視する。
空気抵抗ランキングは以下の通り。
1位 下ハンドル(下り専用F)
2位 ブラケット(前傾深く)
3位 エアロバー(両側持ち)
4位 エアロバー(片側持ち)
5位 下ハンドル(前傾深く)
6位 下ハンドル(前傾浅く)
7位 ハンドルバー
8位 ダンシング
9位 ブラケット(前傾浅く)
走行場面に適したフォームを取り、速く走行しましょう。
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